穀雨 と晩春

 たくさんの穀物を潤す春の雨のことを「穀雨」と云いますが春の花を早く咲けとせきたてるように降る雨に見立てた「催花雨」とも呼ばれるそうです。春の雨についてこんな表現が出来るなんて日本人の感性は素晴らしいの一言です。

この時季これと並んで私の好きな言葉に「晩春」があります。春の終わりを表す陰暦三月の異称でもあります。先日古い映画「晩春」を見つけたので軽い気持ちでクリックしましたら二時間弱・・・これが名監督・小津安二郎の大傑作と云われた作品で、原節子、笠智衆、月岡夢二のお歴々のお出ましだった。作品は「父と娘」の嫁ぐ娘と父親の複雑な心情を描いていることで,昔からその評判は聞いていたが見る機会がなかった。その簡単なあらすじを紹介します。

早くに妻を亡くしそれ以来、娘の紀子に面倒をかけてきた大学教授の曾宮周吉は、紀子が婚期を逃しつつあることが気がかりでならない。周吉は、妹のマサが持ってきた茶道の師匠・三輪秋子との再婚話を受け入れると嘘をついて、紀子に結婚を決意させようとするが、男が後妻を娶ることに不潔さを感じていた紀子は、父への嫌悪と別れの予感にショックを受けてしまう。マサの持ってきた縁談を承諾した紀子は、周吉と京都旅行に出かけ再度心が揺れるが、周吉に説得されて結婚を決意する。紀子が嫁いだ晩、一人家に残る心を決めた周吉は、人知れず孤独の涙を流す。

昭和を代表する小津安二郎という名監督の作品ですがその評価は今に語り継がれていおり、日本映画の作品で一番に挙げるとしたら「晩春」を挙げる人が多くいます。こういうと年齢が分かりますが見た後にその余韻がしばらく残りますね。

 令和2年  卯月        八 大 








 接骨木(にわとこ)

 栃木、那須地方に接骨木と云う地名がありました。それは子供の頃に父親に連れられて親類のお宅にお線香を上げに行った事があった。帰り際にクモの巣状に開いている白い花を見つけたので名前を聞くと、それはにわとこ(接骨木)と云う名前だよと教えられたことを今でも鮮明に覚えている。怪我をして骨折した時に副木をして応急処置をしたことから付いた名前だと云われている。


昔は骨折した場合の治療には、ニワトコの枝や茎を黒焼きにして、ご飯粒と食酢を入れて練ったものを患部に厚く塗り、副木をあてて押
さえて熱をとったと言う。そう云う治療法があったことから、折れた骨を接ぐ薬草という意味で、接骨木(せっこうぼく)という漢名がついたと言われます。

名前の由来は、ニワトコ(庭床)からきていると言われ、古い時代には幹を薄く削って削り花(けずりばな)を作り、祭儀に供えたと言います。現代でも削り花は小正月に飾る風習があると言います。また家を新築するときには庭先に祭壇を作り削り花を飾り神事を行ったと伝えられています。

落葉低木、樹形は下部からよく分枝し高さは5M位になり柔らかい感じである。花は春のこの時期に今年の枝の先端に白く小さな花を多数つけ,夏には暗赤色の果実をつける。若葉の時期にその葉や茎を山菜として食用にしたり、利尿剤として用いられていた。

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 山吹

 晩春のこの時期黄色い花を咲かせるのが落葉低木の山吹です。十年ぐらい前に栃木の「星野の里」で蕎麦を食べていると店の主が出て来てこちらへ来てよと手招きをしてくれました。のこのこ付いて行くと裏庭の藪の中に白い山吹が咲いていました。

これが珍しい「白い山吹」だよと自慢げに話してくれました。これは俺の宝物だよと自慢されていたのを思い出しました。黄色い山吹色は江戸時代までは大判小判を単に「山吹」と呼んでいたそうです。時代劇に出て来る場面で懐から大判を出してかじって見せている姿を思い起こしました。

ご存知の太田道灌の話
上杉氏の家宰(かさい)であった太田道灌
が鷹狩に行ってにわか雨に遭い、あばら家に駆け込むと少女が出てきた。道潅が少女に蓑を貸して貰えないかと尋ねたところ少女は黙って山吹の花一輪を差し出した。道潅は怒って帰りその近臣の一人にその話をしたところ、その者が「後拾遺集」にある後醍醐天皇の皇子の和歌に「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞかなしき」と云う歌があることを伝え、「その娘は蓑一つない貧しさを山吹にたとえたのでしょうか」と云いました。

その後の話
その話を聞かされた道潅は己の無学を恥じ
、この日を境に歌道に精進し人の心の中を
理解できる人になっていったそうです。

物語の舞台になったと云われる山吹の里は
埼玉県の越生町周辺と云われ、最近では町
おこしのブームもあり賑わうそうです。

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 牡丹

 「白牡丹と云えども紅ほの香」 高浜虚子

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花 と美人の姿を現す言葉にもなっている牡丹は清の時代には中国の国花でもあった。新年を祝う花として中国の上流階級ではとりわけ珍重され花海棠と共に最も愛好されている花であります。

四月に入った今頃から六月にかけて咲く花の王様と呼ばれる牡丹は奈良時代に中国より渡来したもので弘法大師が持ち帰ったものとの説もあります。最近では季節に関係なく花が咲かせているのを見かけますね。古名ではフカミクサとも言われて、その花の福々しさを表したもので、花王,白王獅子、大極殿などといろいろな種類があります。花言葉としては「王者の風格」「風格のあるふるまい」と云う、まさに花の王者ですね。

日本へは奈良時代の聖武天皇の時代に渡来し吉備真備が唐からの帰途これを持って帰ってきた云われ最初は漢方薬として渡来したもので、本来はその根と皮の煎汁を腰痛、関節炎、解熱剤、止血剤等として用いられた貴重な漢方薬であったそうです。平安時代の頃からは観賞花として愛されて来ており江戸時代には愛好家が競って品種改良も相まって牡丹文化の全盛となって今に至っているそうです。

牡丹散って打ちかさなりぬ二三片  与謝蕪村
白牡丹鰐をあらわにくずれけり   飯田蛇笏
灯のうつる牡丹薄く見えにけり   正岡子規


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 新型コロナウィルス  の言葉

太陽コロナ
此のところコロナウィルスのお陰で耳慣れないカタカナ言葉が聞かれて記憶するのが大変です。何とかならないのと、ブツブツ独り言を云っているこの頃です。
本来コロナとは、太陽の外層大気のもっとも外側にある、100万度を超える希薄なガスの層であります。太陽コロナと呼ぶこともありますが普段は見ることは出来ません。子供のころガラスの板にロウソクでススを発生させ、皆既日食を見た思い出がおありでしょう。最近ではコロナグラフと云う器具を使うことで観測が出来るそうです。

太陽神の元祖であるコロナの名が最近ではすっかり悪役の
名になってしまい世界中の人々を苦しめており困ったもんです。
そのウィルスに関する気になるカタカナ言葉が新聞紙上をにぎわせています。どうしてこうも簡単に外来語を使ってしまうのかと思いませんか?。最近特に恐怖をあおるような外来語の氾濫が気になっておりますが私なりに突き止めてみました。

その原因の一つは、パソコン語の普及により古来からの日本語がカタカナ(外来種)に押されて駆逐されて来ている途上ではないかと危惧しております。
もう一つは日本語の退廃と言葉による印象操作ではないかと思います、それは日本語による過激な言葉をカタカナ語にすることによってその意味を、より柔らかに伝えられるという印象操作ではないかと考えましたが如何ですか。

 最近のカタカナ言葉を拾いました

 クラスター
コロナウィルス 1
もともとはブドウの房の意味だそうです。群れ、集団、集落のことで集団感染のことを云っています。以前にアフガニスタンやイラン等で紛争が続きその時にクラスター爆弾が話題を呼びました。大きな爆弾を打ち放すとその中にある複数の小型爆弾が炸裂することで広範囲に被害を拡大させてしまう。無差別に殺傷する能力が高い非人道的な兵器であるとして最近は使用禁止の声が出ています。

 バンデミックス
感染症が世界的に複数の地域で同時に大流行することを「感染大爆発」と云いますが、現在まで人の世界でのバンデミックを起こした感染症は天然痘、インフルエンザ、エイズなどのウイルス感染症、ペスト、梅毒、コレラ、結核、発疹フスなどの細菌感染症、原虫感染症のマラリアなどがあるそうです。


オーバーシュート
コロナウィルス 2
検索すると新型コロナウイルス感染に関することで、感染者の「爆発的な拡大」を指す言葉として行政やマスメディアがこぞって使っている。本来こうした事態を表すには「アウトブレイク」(感染爆発というよく知られた言葉があるのに何故、わざわざ「オーバーシュート」を使ったのか?
元々は金融・証券の用語だと言われたそうで有価証券の価格の行き過ぎた変動を云うそうです。その時の適正な基準から離れたときにオーバーシュートと呼ばれ相場が過熱した今がその時です。時間経過と共にいずれは修正されて行きます。

 ロックダウン
英語の「lockddwn]からきている言葉で「都市封鎖」と云う意味合いで使われています。具体的には「対象エリアの住民の活動を制限する」ことで外出禁止などがその例です。
東京都でロックダウンが行われた場合、スーパーやコンビニなどから生活必需品がなくなってしまう可能性があります。「近隣住民による買いだめ」→「店舗の在庫がなくなる」→「都外からの物資供給が滞る」といったケースか考えられるからです。ただ、一人一人が必要以上に商品を買いだめてしまうと、他の住民が困ることになりますのでそれはやめましょう。


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